私は生前、父に歯向かってばかりいました。理由はいくつかあります。自分の考えを押し付けるところや短気なところ、何より、母にいつも怒ってばかりで優しくなかったところ。そんな父が大嫌いで、話せばいつも噛みついてばかりでした。
いつからそんなになってしまったのかな…小学校低学年頃までは、お風呂上がりに父の膝枕で耳掃除してもらいながら、気持ちよくてそのまま寝てしまい、時にはよだれを垂らしてたことも。
『常識』という言葉をよく口にして、堅物の印象が強かった父ですが、茶目っ気やユーモアもある人でした。
私が幼稚園生くらいだった頃、市内に初めてミスタードーナツができました。オープンの広告を見た父が「買いに行こう!」と言い出し、喜んで車で出掛けました。
お店が街中で駐車場が無かったため、父は車に残り、兄と私とで店内に入ることになりました。珍しいもの好きな父は、私たちに「全種類1個ずつ買ってこい❕」と、気前のいいオーダーを出しました。
子どもたちだけで入店し、店員さんに「いらっしゃいませ、何にいたしましょう?」と聞かれた私たち。兄も当時はまだ小学生、おそるおそる「お店にあるのを全種類ください…」
その瞬間、店員さんの表情が変わり、お店に緊張が走ったのを、子どもながらに感じました。
「あれ?何かとんでもないこと言った❔」
店員さん総動員でドーナツの箱詰めが始まり、店の奥からもドーナツが運び出されてきました。
私たち的には、ショーケースに並んだドーナツ1個ずつのつもりだったのですが、『店にあるドーナツ全部よこせ❕❕』て言ってくる、子どもテロリストでも来たのかって雰囲気でした。開店早々、とんでもない客来ちまったよ💧みたいな。
お会計がいくらだったのか、ドーナツが何箱になったのかも覚えていませんが、あの時のお店の騒然とした空気は今でも忘れられません。
店を出ると、バス通りに違法に停車していた父は、バスの運転手さんとケンカしてました。そして、腹の虫の収まらなかった運転手さんから、我が家の車のアンテナはボキッ💢と折られてしまいました。
家族5人では到底消費しきれないドーナツは、近所のいとこの家にも配られました。
サイドストーリーがてんこ盛りすぎて、肝心の味の感想を覚えてません…
今となっては、とても味わい深い、父の人柄を集約したような思い出です。本当は父のこと、好きです。